VIVA ASOBIST

vol.47:塩田朝康
カフェのようにバーを定着させたい

塩田朝康

【プロフィール】
バー「樽の水」を経営

東京都品川区東五反田1-12-9
TEL 03-5789-4566

vol.47_01.jpg 五反田駅周辺には、オーセンティックなバーがほとんどない。徒歩10分圏内でも2〜3件というところだ。そんな中、駅から徒歩2分という近さで、「樽の水」の看板を見つけ、試しにと即入ってみた。これが、オーナーの塩田さんとの出会い。
通常、オーセンティック・バーを開くには、しっかりしたバーで何年か修行するもの。しかし、塩田さん、前職は全然違う業種に就いていた。
それにしては、バーに対してのこだわり、知識が本職並み。カクテルの味も上等だ。そこで、塩田さんに、いろいろとお話を伺ってみた。

名酒は美しい!
「バーとの出会いは、高校生の時に講談社の世界の名酒辞典を見たのが最初です」
お店のオープン前とあって、塩田さんはびしっとした制服で決めている。話し方は静かだが流暢で、さすがバーテンダーというところか。ちなみに、世界の名酒辞典は30年以上前に創刊され、日本酒以外のお酒を網羅するバイブルだ。

「名酒辞典で特集されていたホテルのバーの写真を見て、キレイだなと思いました。あとは、レモンハートという漫画が好きで、カクテルに興味がありました」
レモンハートはお酒をテーマにした古谷三敏作のコミックで、マスターと客のかけ合いで、お酒のうんちくが語られるのが魅力。酒飲みなら押さえておきたいシ リーズだ。しかし、酒の味を知るより先に、辞典やコミックで興味を持つとは、なんと異色な運命の出会い!

塩田さんの実家は会計事務所をしており、高校を出た後は資格を取るために東京の簿記の専門学校に出てきた。さっそく、念願のバーに突撃することになる。
「20年くらい前に初めて行ったのが、渋谷の『門』です。緊張しながらも、レモンハートで紹介されていたお酒を飲みました。ジンでしたね」

vol.47_02.jpg 専門学校は2年で卒業したものの、そのころには会計事務所に就職しないで、飲食業界に進もうと考えていた。高校生のころの夢そのままに、中でもやはり「バー」に惹かれていた。
そこで、求人情報誌「フロムA」を見て、大和実業に就職。最初はトラッドバー「エスプリ」のホールで働いた。バーテンダーの仕事ではないのでは? と聞く と「カウンターに入れなくても、ホールにいることがモチベーションでした」というから、本当に、バーの空間が好きなのが伝わってくる。
その後、新店に移され、ランチに注力するなど、目標と異なる方向に進んでしまう。そんな中、めでたく結婚が決まり、退社。塩田さんは会計事務所に勤めることになる

とりあえず「バー」で働ける!!!
「そこが人生の分岐でした」塩田さんは言い切る。
このタイミングで実家に帰っていたら、そのままという可能性が高かった。しかし、修行という形を取り、東京に残ったのだ。結婚したてではいくらお金があっ ても足りないもの。空いている土日に、アルバイトを探す。やはりというか、塩田さんらしいというか、飲食業に目がいくことになる。またもやフロムAで「日 比谷バー 新宿店」の募集を見つけた。週末、深夜だけとはいえ、とりあえずバーで働けるのがうれしかった。
となると、もう先は読める。3ヶ月後に、親に頭を下げて会計事務所を辞めることに。そして、日比谷バーに入社する。

「カウンターからホール、キッチン、店の運営、新店出店など、さまざまな経験を積み、5年後には店の運営を自分でやりたくなってきました。しかも、同時期に大きな店舗に移され、自分のやりたいこととずれてきたんです」
子供も増えて飲食店の給料ではきつくなった。ここで、普通ではあり得ない決断を下す。日比谷バーを辞めて、イベント設営の会社に転職したのだ。
「5年間働き、お金を貯めて戻ろうと考えたのです」

飲食に限らず、サービス業で働いていると誰も彼もが「自分の店を持ちたい」と言い出す。そして少し貯金して、どこかのタイミングで無茶な出店を試みる。当 然、ほとんどが数年以内につぶれることになる。他の職種でお金を貯めるのが近道だとしても、なかなか慣れ親しんだ業界から離れる人はいないものだ。

塩田さんが入ったのは、イベント会場の床施工に特化した内装会社で、週末泊まりがけは当たり前。みんなが寝ている間に動き、バーにいた頃の倍は働いた。当 然、収入もよく、家族を養いつつも貯金を実行。バーの内装も手がけ、自分の夢を実現させるための経験も積む。途中、3人目の子供ができたので、ずるずると 続行し、7年が過ぎる。

「7年目くらいで、体がきつくなってきました。出世することもできましたが、現場に出ないと逆に給料が下がってしまうのです」
そこで、塩田さんは独立を決意する。

オープンしたにはしたが…
「最初の物件探しに、1年間かけました」
条件は、15坪以内の地下1階。神田や池袋にも物件があったのですが、家賃とのバランスで五反田に決めました。そして、2006年7月、勤めていた会社に内装を依頼し、10月のオープンにこぎつける。
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充実のバックバー。
オフィシャル物を中心に、豊富な品揃え。
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カウンター右側には
ボトラーズブランドを揃えた棚がある
「その頃には、バーテンダーになりたいというより、バーの経営者になりたいと自分の中でコンセプトが変わっていました」
そこで、株式会社を作り、バーテンダーふたりとキッチンを雇用した。しかし、オーセンティック・バーの立ち上げが簡単にいくわけがない。当然、最初の集客には苦労した。

「私もスーツ姿でフロアに立っていましたが、この頃は自分のお店という実感がありませんでした」
周囲には有名な飲食店がたくさんあるものの、一般的には“五反田にバーはない”という認識なので、2件目にバーを選ぶ客は恵比寿や渋谷、中目黒などに流れてしまう。
しかも塩田さんは、あくまでも「待つ」姿勢を貫いた。
「バーなので立地は多少関係ないかなとは考えていました。業態ありきと考え、あまり広告は出しませんでした」

結局、思うように客足が伸びず、2007年3月、バーテンダーふたりを雇い切れなくなる。さらに、社員契約だったキッチンスタッフにも内情を話して、出向してもらう。
「今思えば、やりたいことだけが先走っていたような気がします。他のバーに行って、いいと感じたことをすぐ導入したりして、ふらふらしていました。自信がなくなってきたのかもしれません」

塩田さんは自分でカウンターに立つようになった。奥さんにも手伝ってもらい、自分で対面接客を行う。最初の1年は厳しかったものの、自分でカウンターに立 つようになってから、自分のお店という実感が持てた。人件費を大幅に削減できたため、経営は順調とのこと。

一番つらかった、オープンからのこの1年。
「自分の独りよがりだと思うんですが、これだけのことをやっているのに、何でお客さんが入ってくれないんだろう」「本当に必要とされているのか?」
とジレンマを感じる。しかし、大衆酒場に迎合して、クオリティを下げるようなことをしたくない。歯を食いしばってがんばるうち、認知度が上がってきた。

「バーは扉を押す勇気が必要ですよね。でも、居酒屋に比べれば高いけど、女性がいるお店よりは安い。なのに、『バー』というだけで構えられるのが変です」

客側は「バーは怖い」、バー側は「うちは居酒屋じゃないんだ」といったお互いの誤解みたいなのがある限りは、洋酒の文化が根付かないと塩田さんはこぼす。
「焼酎は気軽に飲むけど洋酒はちょっと、といった気構えがあります。そこを、バーテンダーが情報を発信し、肩を張って飲むものではないんですよと伝えていきたい。スターバックスが定着したように、バーを定着させたいですね」。

vol.47_05.jpg 「バー文化」を広げたい!
「樽の水」は最初から会社組織の一部として立ち上げており、将来は若い人たちが独立するための手助けをしたいと考えている。ところが、詳しく話を聞くと塩田さんに利益がほとんどないシステム。
「それじゃ、儲からないのでは?」
「現状の東京で、田舎から志を持って出てきた若者が、お店を出すのはほとんど無理。しかし、利益を取るシステムにすると、真の独立ではありません。のれん分けでもなくて、本当の意味で独立できるようなシステムが作れたらと思います」

自分のバーを夢見る若者にとっては、救いの神様だ。
「今後は五反田で根を張って、まず「樽の水」を成功させたい。また、会社がよくなるには人も重要なので、若い子をきちっと教育したいですね」

味よし立地よし価格よし。加えて、雰囲気のあるキレイな店舗と、人情味のある塩田さんの人柄があれば、今後盛況になるのは目に見えている。若い人が育ったら、将来はあちこちの町にバー「樽の水」ができるかもしれない。楽しみだ。
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オープンしてすぐに、元世界ライトフライ級王者の 
渡嘉敷勝男氏からのインタビューを受け、誌面を飾る。











読み物 VIVA ASOBIST   記:  2008 / 12 / 01

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