VIVA ASOBIST

Vol.104渡部桂太
2020年東京オリンピック・スポーツクライミング応援シリーズ―8―

スポーツクライミングがオリンピック追加種目として最終承認されてから早3年が経ち、2020年東京開催まで1年を残すのみになりました。TVその他、各メディアの注目度は日に日に増し、社会の認知度は高まり、クライミングがオリンピック種目になっていることは既に周知のこととなりました。
しかしながら世界初となるこの試みの中で課題山積の現状は否めない様相です。選手たちもまた難問を抱えながらも雄々しく立ち向かい、研鑽の日々を送っていることでしょう。
来る2020年東京五輪の選手陣の華々しい活躍に大いに期待し、大会におけるクライミング種目が成功を納め、クライミングワールドが広く世界に受け入れられることで拓けるであろうクライミング界の輝かしい未来に希望をつなぐものであります。
「VIVA ASOBIST」では「2020年東京オリンピック・スポーツクライミング応援シリーズ」と題し、日々研鑽を重ね続けるスポーツクライミングの選手やその周辺に焦点をあてて、ここに皆様にご紹介いたします。

 

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adidas ROCKSTARS Stuttgart 2018 © adidas ROCKSTARS 2018
 

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adidas ROCKSTARS Stuttgart 2018 © adidas ROCKSTARS 2018  
 

 


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【プロフィール】
渡部桂大(わたべけいた)
プロフリークライマー
所属:住友電装株式会社
1993年三重県生まれ。25歳(2018年12月現在)

主な戦績
【国内】
2006年8月:第9回JOCジュニアオリンピックカップ大会 リード12歳 3位
2008年3月:JFAユース選手権リード 14歳 1位
2008年8月:第11回JOCジュニアオリンピックカップ大会 リード14歳 4位
2009年3月:JFAユース選手権2009リード 15歳 8位
2009年8月:第12回JOCジュニアオリンピックカップ大会 リード15歳 5位
2010年3月:JFAユース選手権2010リード 16歳 1位
2010年8月:第13回JOCジュニアオリンピックカップ大会 リード16歳 2位
2012年8月:第15回JOCジュニアオリンピックカップ大会 リード18歳 1位
2015年2月:第10回ボルダリング・ジャパンカップ 21歳 2位
2016年1月:第11回ボルダリング・ジャパンカップ 22歳 5位
2017年1月:第12回ボルダリング・ジャパンカップ 23歳 2位
2018年2月:第13回ボルダリング・ジャパンカップ24歳 8位

【国際】
2008年8月:IFSC 世界ユース選手権 シドニー・オーストラリアリー 14歳 10位
2010年9月:FSC 世界ユース選手権 エディンバラ・イギリスリード17歳 29位
2015年11月:IFSC クライミング・アジア選手権 寧波・中国 ボルダリング22歳 2位
2016年6月:IFSC クライミング・ワールドカップ ボルダリング ベイル・アメリカ22歳 8位
2016年8月:IFSC クライミング・アジア選手権 都・中国 ボルダリング 22歳 7位
2017年4月:IFSC クライミング・ワールドカップ マイリンゲン・スイス ボルダリング23歳 3位
2017年4月:IFSC クライミング・ワールドカップ 重慶・中国 ボルダリング23歳 4位
2017年4月:IFSC クライミング・ワールドカップ 南京・中国ボルダリング 1位
2017年5月:IFSC クライミング・ワールドカップ八王子ボルダリング 3位
2017年6月:IFSC クライミング・ワールドカップベイルボルダリング 6位
2017年6月:IFSC クライミング・ワールドカップナビムンバイ・インド 8位
2017年9月:IFSC クライミング・アジア選手権 テヘラン・イラン ボルダリング 3位
2018年4月:IFSC クライミング・ワールドカップ モスクワ・ロシア ボルダリング 8位
2018年9月:IFSC クライミング・世界選手権 オーストリア ボルダリング 4位 
2018年11月:IFSC-ACCクライミング アジア選手権 倉吉 ボルダリング 2位

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Rock&Wall辻堂店にて
 


東京五輪フリークライミング応援シリーズ第8弾に登場は渡部桂太選手。クライミングを知りそめたのは小学2年生。山道具を物色しに行ったアウトドアショップで。気がついたらボルダーマット背負って外に通っていた。選手の中では異色の遍歴と自ら自認する。かつて上がったことは一度もないと言い切る。沈着冷静なメンタルの持ち主の飄々とした語り口に耳を傾けてみようではありませんか…



 

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Rock&Wall辻堂店にて
 


近くの小山に登るのが好きだった
ジムでは大人に交じってボルダ―もリードもやった
気がつけば外岩が好きになっていた


小玉:家族構成はどんな感じですか?
■渡部:男二人兄弟で、兄がふたつ上。1年前くらいまでは、実家暮らしでした。兄は就職で先に東京に来ていました。
小玉:お兄さんはクライミングはされない?
■渡部:本当に最初だけ、PUMP OSAKAができてすぐの時は、ちょっと体験という形で行ったことがある程度です。
小玉:お父さんお母さんも一緒に行かれたんですか?
■渡部:小学校低学年の間はジムに行く足がないので車を運転してもらっていましたが、基本的にはリードじゃなければ自分で登るだけですし、リードの場合は親にビレーしてもらったり、大会は一緒に行ってもらいました。
小学校高学年から高校になったら一人でいろんなコンペに行っていました。基本的には、ほぼ自分ひとりで動いて、外岩に出かける時は、ジムで会った人たちと。
小玉:お兄さんは?
■渡部:ノータッチ。吹奏楽部でした。
小玉:リードされているのは年配の方が多いですね?
■渡部:そうですね。
小玉:ロングルートのバリエーションやアプローチの長いマルチなどは年配には体力と持続力が問題になってきます。比較的長くできるのがクライミング、それもリードクライミングでしょうか。
■渡部:そうでしょうね。
小玉:自分の度量に合わせた壁さえ選べば、ロープが付いてるから落ちても安心(笑)
■渡部:僕はクライミング歴は16年くらいですが、たとえばスポーツルートは、登り切ることが最優先です。けれど広義でクライミングを捉えると、登り切るというより登るための手段でクライミングというものが存在していると感じます。
小玉:そうですね。
■渡部:途中で落ちたとしても登りきれればいいわけです。
小玉:マルチの場合は、フリーにこだわっていたら埒が明かなければ、「もう、A0でもなんでもやっちゃえ」となります。
■渡部:そうですね。ありとあらゆる手段を使います。広義に言えば山登りもクライミングです。実は僕はロッククライミングに特化したクライマーから今のスポーツクライミングにシフトしていったんです。
小玉:もともと体を使って遊ぶのが好きでたまたまクライミングと出会ったとか?
■渡部:小学校2年生の時でした。近くにアウトドアショップがあって、珍しく4、5mくらいのトップロープの壁が設置してありました。そこで近くの山へ行く準備で登山用具を買いに行ったついでにちょっと体験してみようという流れになったんです。
そのころはまだ山ブームというほどでもなくて店内には人もいなく、店員さんも手すきだった。小さい子にかまけていられるいいタイミングだったんでしょうね。
僕も最初は恐さとか単純に距離が届かないとか、なかなか克服できないことがたくさんあった。ジムじゃないので、通わなくてもいいんですけど、まあ、通うような形になると徐々にできるようにもなっていきました。
そのうち、そこの方から、こういう講習会やっているところがあるよとか、いろんな情報を得て、クライミングジムを探して、通うようになったんです。今みたいにネット検索してどこが近いとかどこに行ったらいいかという情報がなかったので、そんな経緯でクライミングを始めました。

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Rock&Wall辻堂店にて
 


小玉:そのクライミングジムで知り合った方たちと外に行くようになったわけですね。
■渡部:それは、1年後2年後なんですけれど、基本的に大会というより岩のための練習が多くて。その辺、小学生とか僕くらいしかいなかったこともあって、みんな優しくてストイックに岩に行っている人たちに可愛いがってもらいました。最初はマットも持っていないので、借してもらいました。リードだったらロープを借りたり。何回かたってからマットは買いましたけど。
小玉:ジムに行ってる人のなかでは小学2、3年生というのは、珍しかったわけですね。
■渡部:小学生はいなかったですね。
小玉:今、ジムには小学生はたくさんいますね。みんな上手!!!
■渡部:誰が誰だか分からないくらいたくさんいますね。
小玉:渡部さんが始められたころは本当に少なかったから、大人たちみんなのマスコットですね。
■渡部:そうですね。僕よりも10歳も、20歳も年上の方がたくさんいらっしゃったので、その中で、子供なので相手をしてもらえるのも楽しいし、ほとんど僕のわがままでまわりを振り回していたんだと思うんですけど、結果的にはそれがあって今の自分があると思います。みなさんストイックな集団なので、目的のために自分で練習して岩のために食事に気をつけたり、アスリートでした。それがジムに通う中で自然に僕の中に吸収されていったと感じています。
小玉:外ボルですか?

*外ボル:ジムなどインドアで行うボルダリングに比し、屋外の自然の岩で行うボルダリングをいう。

■渡部:山もちょくちょく行っていたので、最初はリードでした。ボルダーというのはもう少ししてからなんですけど、手軽さとパートナーがいなくてもいいし、ロープを背負うよりもマットの方が楽なのでボルダーに移行していきました。
小玉:小学生でマット背負えるんですか?
■渡部:昔のマットはへたりも早いし、大きさの割には軽い。ロープをリュックに入れる方がずっと重いんです。
小玉:厚みが10センチほどしかないじゃないですか?外ボルのマットって。
■渡部:僕はマットに関する恐怖心がもともとなかったので。マットがなくても土だったらいいかなって。
小玉:なるほど。でも土とは限らないでしょ?
■渡部:もちろん、河原だったり。そこを含めての僕のクライミング。高さに対する魅力もあったんですけれど、ボルダーっていうスタイルの方があっていると感じました。

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中央分離帯・愛知県。2018年10月
 


小学4年生でノースフェイスカップ初優勝
それでも外岩へのモチベーションの方が高かった
やりたいクライミングを続けた先にコンペが浮上した


小玉:それで外のボルダーとかリードをやってらして、いつごろ競技に?
■渡部:初めて大会に出たのは、昔、ストマジ(クライミングパーク ストーンマジック Climbing Park Stone Magic https://stonemagic.jp/" https://stonemagic.jp/)でノースフェイスカップ・THE NORTH FACE CUPというコンペがあったんです。今のひとつ前の世代のワールドカップに出られた方が現役バリバリのトップクラスにいらして、その中で小学生高学年の部で出ました。きっかけは通っていたジムの人が一番上のクラスに出るという話があって、「知り合いがいるならついて行くか」という勢いでした。そしたら優勝しちゃった!
そのころは小学生は全国から集めても10何人でしたが「優勝しちゃったよ!」みたいな。大会がどういうものなのかももよく分からなかったんですけど、それから大会を意識するようにもなりました。大会のためにというばかりでなないけれど、「大会も楽しいな」と。同年代の人もいるし。そこからです。
小玉:そのストマジのコンペに最初に出られた時は何年生?
■渡部:4年生です。同年代の中で1位を獲ったのは単純に嬉しかったです。

小玉:それで競技の方に気持ちが開眼したということですか?
■渡部:積極的には出たいとは思わなかった。「あったら出ようかな」ぐらい。大会のための練習はしていなかった。岩のためにジムに行ってました。だから結果は出ないです。以前、川越で開催された、ジャパンカップ(ボルダリング・ジャパンカップ)に出たことがあるんですけど、全然歯が立たなくて、おかしいと思いました。大会って色んなクライミングが出て来て、自分の好きな傾斜しかやっていなかったので、対応できなかったんですね。大会に対するモチベーションよりも岩に対するモチベーションの方が高かった。
小玉:それは、とてもよく理解できます。つまりは、元々は外の岩を登ったものですもんね。外岩の模擬がジム。
■渡部:そうですね。そこしか知らなかった。

小玉:総合的にいうとやりたいクライミングというのは、今はやれている感じですか?
■渡部:そうです、比較的自分がコンペで頑張ろうと思ってから、思うようなクライミングに近づいていると思います。JOCのユースの大会に出ている時に、僕と同じ歳でもの凄く強い中嶋 徹という人がいて、絶対的に強くて全然勝てない。なぜ勝てないんだろうと思っていたら彼が優勝したんです。そしたら彼曰く優勝したからもう大会には2度と出ないと。彼も自然が好きで、アウトドアにもずっと通っている。そちらに重きを置いていくということでしたが、僕からすると勝ち逃げされたような気持になりました。ここで負けっぱなしで終わるのでは不完全燃焼だなと。それでは僕は逆に彼が選ばなかったコンペの道に進もうと思いましたね。高校生くらいの時でした。「僕はコンペで頑張る!!!」と。それから6年経って今に至るわけです。自分が覚悟を決めて挑んでるコンペの中では、そこそこ成績は出ていると思っています。

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Rock&Wall辻堂店にて
 


小玉:インドアの練習は、毎日ですか?
■渡部:毎日はしないです。よくて4、5回くらい。
小玉:練習時間は?
■渡部:5、6時間くらいですね。結構、いつの間にか時間が経ってしまいますね。
小玉:いわゆる登ることによって、鍛えるという以外にトレーニングは?
■渡部:今だと、スポンサーでもある森永製菓主催のトレーニングラボというのがあるんですけれど、そこには、幅広くさまざまなアスリートの方がいらっしゃる。オリンピックで金メダルを獲った人も。その中でトレーニングをしています。
小玉:筋肉トレーニングとか体幹トレーニングとかですか?
■渡部:内容はあんまり固定していません。

*森永製菓株式会社は異なるカテゴリーのトップアスリートをサポートしている。主催のトレーニングラボでは各分野のスペシャリストが解剖学・生理学・バイオメカニクス・栄養学・心理学などを駆使して、最高のパフォーマンスを導きだす情報・方法・技術を提供し、フィジカル面をサポートしている。https://www.morinaga.co.jp/in/support/labo/

小玉:トレーニングラボで、トレーナーがいらっしゃるわけですね?
■渡部:そうです。各競技に担当している方がいて、その方と栄養士の方と相談します。でも、頼りきったりしても、クライミングはクライミングしないと上手くならない。
小玉:どのような栄養指導や食に対する指導なんですか?
■渡部:栄養サポートというのは、試合中とか試合前にどういうものを摂取した方がいいかとか…
小玉:週4で5時間くらい登って、終わった30分以内のゴールデンタイムにタンパク質をとるとか、そういことですか?
■渡部:そういうレベルです。朝食はこれくらいを摂ってとか。
小玉:みんな細いですよね。
■渡部:脂肪が多くて登れるわけないですからね。今のクライミングの風潮として必要な動きが、軽量体型の方が有利なんだと。でも、一時期よりみんな体重が重いです。


どんな時もあがったりしない
気温や気象、自然の中で岩はなんともならない
冷静沈着、待つ忍耐力は岩から学んだ


小玉:週4通われるジムはどちらですか?
■渡部:通うといっても一ヶ所じゃないです。
小玉:その時は、ボルダーもリードも一緒にやられるんですか?
■渡部:僕は、9割9分ボルダーです。筋トレやるのもボルダーのジムです。リードのジムは混み過ぎて嫌です。自分のタイミングで登れないから。練習的には向いていないと感じます。
小玉:時間帯もありますよね。
■渡部:そうですね。午前中は少しすいています。
小玉:ルートの設定だと難易度が高いのががあった方がいいでしょ?
■渡部:どうなんですかね。めちゃくちゃ難しいのはなくてもいいと思います。

小玉:トレーニングといえば、メンタルトレーニングは考えてますか?
■渡部:したことないです。
小玉:あがったりしませんか?
■渡部:人生でほぼあがったことがないです。
小玉:すごい沈着冷静なんですね。
■渡部:大会でも焦る必要がないので。焦ってもいいことがないし。
小玉:短い時間のオブザベーションだけで、どう登ればいいのかを理解するのは、舞い上がっちゃったら絶対ダメですよね。
■渡部:そうですね。でも、そこに関しては、冷静であると同時に自分が何が出来るか分かってないとダメなんです。分かっていれば、焦ることはないです。焦ってもしょうがない、焦る必要がない、やるべきことをやるだけ。「よし頑張ろう!」みたいな。

*オブザベーション (observation): 登るルートのホールドやスタンスを観察すること。 コンペ(競技)では6分間のオブザベーションができる。

小玉:沈着さに支えられた渡部選手の対応力はよく現れていると思います。大会の映像を見ているとしばしば足も手も止めにくい感じのところ、そろっとそろっとやりこなして、他の選手は落ちたところでも落ちないという場面を見ます。それは恐らく自然の岩の経験が多いことがプラスになってるのではありませんか?
■渡部:岩はタイミングも重要です。自分が狙った時に岩のコンディションがいいとは限らない。ある意味、待つ忍耐力を要します。自分が焦っても岩はなんともならない。岩が起因している感覚はあると思います。

小玉:ユージさんなんかは、ライドって言いますよね。クライムじゃなくて、ライド、乗りこなす。
■渡部:かっこいい。僕は言ったことがないなぁ。
小玉:だからライダーって名乗ってますね。
■渡部:そうですね、ストーンライダーですよね。勉強になったな。
小玉:リードよりもボルダリングが好きなんですね?
■渡部:そうですね、かなり好きです。

*ユージさん:平山ユージ。日本有数のプロクライマー。芸術的なクライミングスタイル(最も美しいクライミングスタイルと称される)で活躍するトップクライマーの一人である

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IFSCクライミング世界選手権2016年9月パリ・フランス
 


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IFSCクライミング世界選手権2016年9月パリ・フランス
 


コツコツと積み上げた先に勝利があるとは限らない
それでも一戦一戦、目の前を大事に戦う
それが自分スタイル


小玉:そうすると、話がちょっと飛躍しますけど、2020年のオリンピックは、コンバインドじゃないですか。
■渡部:そうですね、3種目ですね。
小玉:種目別はない。となると、それに向かっての練習というと、リードもスピードもやらなきゃいけない。それは負担ではないですか?
■渡部:負担ですね。もう、なぜしないといけないんだろうと自問自答です。自分が好きでやっている競技なので、強要されるような流れは嫌ですね。クライマーにしてみればあり得ないことです。僕はそこは納得できていないですね。納得することは、一生ないですけど。対外的にオリンピックに出ることがスゴイということはわかります。オリンピックに出たことが人生に影響を与えることがあるともわかっていますが、かといって僕にとってはオリンピックで人生が決まる訳でもない。自分の人生は自分で決めたい。僕より強い選手がいたら彼が出た方がよいと思います。

*コンバインド:2020年東京オリンピックでのクライミングはスピード(同じコースを登る時間を競う)、リード(長いルートをどれだけ高く登れるかを競う)、ボルダリング(高さ5m程の壁に設置された複数のルートをどれだけ登れるか、またどれだけ少ない回数で登れるかを競う)の3種目の総合点で優劣を決するコンバインド方式が採用される。

小玉:2020年の追加種目が5種。その全部の人数が選手以外のスタッフ関係者も含め何百人とか決まっていて、逆算していくと、クライミングの枠も決まった。
■渡部:そうです。
小玉:だから、本当だったら体操みたいに個人、種目別、総合、団体総合とか、そういう仕分けがあってしかるべきだと思うんです。
■渡部:クライミングがオリンピック種目になったことはチャンスではあると思うんです。このスポーツの知名度が上がると。だけれども、もともとのクライミングという文化的背景との歪みは広がってると思います。
小玉:スピードが種目別になったら、ボルダリングやリードに出てくる選手とはまったく選手層が違ってきます。今でも世界のトップクラスのスピードの選手って、ボルダリングもリードも競技には出てこない選手ですよね。
■渡部:スピードクライミングは否定はしないです。見てても面白い。ただロッククライミングではないですね。
小玉:決まっているルートですものね。
■渡部:そこはどうなんですかね?そこを話し始めると今日は終わらない。
小玉:案外、やってみると難しいと聞きます。
■渡部:難しいですけど、それは難しいでしょって感じです。
小玉:どのホールドをどうとってというような手順を全部頭に入れて、目をつぶってもできるようになっていないとスピードは上がらない。
■渡部:そうです。歩くのと一緒です。いちいち考えて歩いていないし。僕は考えて歩いていますけど。僕には向いてないですね。リードもそういう要素がある。順応していく。ルートに対して完登を目指していくと、自動化していくといいます。僕はそもそもそういう考え方が嫌いなんです。リードが好きじゃないのは、そこですよ。
小玉:デッドポイントみたいな考え方はダメですか?
■渡部:あんまり面白くないですね。自分がやりたいならいいですけど。それが目的でクライミングはやらない。

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Rock&Wall辻堂店にて
 


小玉:印象に残った大会は、やっぱり日経新聞の「いきなりじゃねーよ」ですか?
■渡部:どうなんですかね。
小玉:2017年のBWC南京・中国戦で優勝されて八王子戦でも3位、その後も上位入賞が続いて、取材記者に「急に突出してきたのはなぜか?」と質問されて、「15年間の蓄積なんです」とお答えになった時に、内心では「いきなりじゃねーよ!」と思ったっと書いてありました。笑ってしまいました。
■渡部:本当にそのままですね。「なに言ってんだ!」と。
小玉:そりゃそうですよね。
■渡部:取材にくる人って調べてこない記者も多いんですよね。あういう場に来る人は。
小玉:そうなんですか?
■渡部:全然、調べてこないんですよ。名前確認していいですかって。調べれば分かるでしょう。競技後にそんなの聞かないでよって。色んな人が取材にくる。もちろん色んな考え方もあるから、百歩譲ったとしても大会が終わった直後のインタビューなんだから最低限必要なことしか聞かないというのがマナーではないかと思ったし、相手を尊重するというスタイルが当たり前だと思っていたので、僕も必要じゃないコメントはしなかったんです。
小玉:まだ、ついていっていないメディアもあるんでしょうね。
■渡部:スポーツとしてのクライミングはまだまだ尊重されていないんでしょうね。それが「取材してあげているんだよ」というムードを作るんです。これからスポーツとしての格が上がっていった時に、僕らは自惚れてしまわないようにしないといけません。こちらは大会に出ているプロとして、取材者はその道のプロとして相対したいものです。


希望はもっと先、パリへ!
東京を試金石にして整えられたクライミング環境でこそ
自分を試してみたい!


小玉:多くのメディアは学習途中だと思います。用語からまず学ばないといけない。これからリアルタイムでのクライミング試合中継なども増えてくると思います。クライミングというものを多くの人に知ってもらって、クライミング人口そのものも広がっていくいいチャンスだと思うんです。ですから全く知らない人にもわかるような工夫や解説は必須だと思います。
そういう意味でいえば2020を受けてのジムの乱立もいいのではと考えられます。やはりジムはインとアウトの交流点だし、それからリードは70歳を越えてる人がたくさんいたりキッズもいたりして、異世代の交流の場だし、そういう場としてのジムが増えるということはクライミング文化を広く喧伝していくためには有効だと思いますね。
■渡部:僕も競技者ではあるんですけど、地元でずっとクライミングをしてきましたし、今、こういう状況で、オリンピックに採用されたことでブームになっていたりする。社会の場で就職とかさまざまに影響ができたりもしている。そういう状況について違和感がある方もいれば、いいんじゃないって応援してくれる方もいらっしゃる。そんな賛否両論ひっくるめて、僕がこの人たちから学んだことを無駄にしないということを意識し続けようと思っています。現役中はなかなかできなくても、伝える側にもまわる時が来たら、どんどんいい形で拡散していこうと。僕は、変則的な遍歴で、岩も好きだし、コンペもというところで、それはむしろ恵まれているということなのかもしれないと感じます。異世代の交流は僕もすごく感じるし、そのお陰で僕も存在している。
小玉:私たちの年代だと、山からインドアの方にという人は多い。普通に最初は誰でも人間は歩けるでしょってことで山を始めても、だんだんと高い山へ難しい山へと移行していくと、森林限界を越えたら岩稜帯になるわけで高山の岩稜帯歩きはクライミングをかじっている人と、経験のない人の差が歴然。安全登山の基本はクライミングと言われるゆえんでしょうか。
■渡部:わかっていれば、いたずらに岩にしがみつかず空間を空けますからね。
登山に必要だからクライミングの練習をする。必要なものに対する過程の中の練習は、時代を経ても変わらない。ただ、確かに多様化はしてきていますね。
小玉:基本的なクライミングに対する自己コンセプトがそういうふうにいらっしゃるから沈着なんですね。
■渡部:なるほど、そうかもしれないです。
小玉:「くわっー!勝つ勝つ!!」というふうにならない。
■渡部:やることやれば、成績がついてくる。それでダメならしょうがないでしょって感じです。
小玉:ある意味、自然体な感じです。
■渡部:特殊といえば特殊かもしれないです。年代的にも、珍しい。

小玉:ワールドカップで印象に残った大会…
■渡部:あんまり、これっていうのがないんです。ひとつひとつ全力でやってるし、手を抜いた覚えもない。結果は変わっているんですけど、あんまりどれってことがないです。ひとつといわれても絞れない感じがしますね。
小玉:優勝しても、何位であっても、自分としては同じというか、目の前にあるものに対して真摯に向き合う。いろんなものが合致して、優勝したということなんですかね。
■渡部:そうですね。もちろん優勝した方が、やりたいことやれるようにもなるし、周りも喜んでくれる。だけど優勝できるのは一人なので、絶対優勝できるとは限らない。男子は特に拮抗しているので、高次元なレベルのところで戦っていますから、絶対王者になるのは至難の業です。だから自分のスタイルでしっかり練習して結果を出せる状態を常に作っておく、そこにつきるのかな。

小玉:先ほども話題にあがりましたが、2020年にクライミングが正式種目になったということを受けて、雨後の筍のようにジムがボンボンできてという現象についてどういう感想ですか?
■渡部:たとえばボルダリングだと一人でできるので、スポーツとして敷居の低い入りやすいスポーツだと思います。その受け皿が増えるのはクライミング発展のためにはいいと思いますよ。その中でめいめいが自分のスタイルで周りを尊重しながらやっていけるでしょう。ある意味もったいないジム、そこまでの労力をかけてそのレベルかというようなジムも確かにありますから、つまり…登れるレベルとかではなくて、ジムとしての何を提供するかをおさえてないジムが増えたのは残念です。
増えることで互いの切磋琢磨が生まれれば、いい刺激になる。マンネリ化してくると、停滞してきてしまう。

小玉:ジムが増えてクライミングキッズも増えると、その中からワールドカップにいけるような選手が育つかもしれないという期待も持てます。11、12をチャレンジしている場面を目にすることも稀ではないのが最近ですから。
■渡部:僕の同じ歳よりみんな強い。登れる能力は高い。みんなワールドカップで優勝できると思いますけどね。
小玉:そうやって、人口が増えていく中で、いわゆる、習い事というと、かつてはそろばんでピアノでといってたのが、その中のひとつにボルダリング、クライミングが入りつつある。そうすると自分はやらないのに、ビレーだけしに来ているというお母さんを見かけるようになった。
■渡部:まだ、いい方じゃないですか?まったく来ない人の方が多いと思いますよ。送り迎えだけ。
小玉:そういうことに対して、親御さんとかお子さんをどう思われますか?
■渡部:人は多種多様なわけで、となるとジムも幅広い層の人が来る場所なので、ピンキリな部分は仕方ないと思うんです。ただ重要なのは、棲み分けが必要かもしれません。今後のジムは。そこのバランスをとっていかないと同じ空間では難しい。都市部では多店舗展開していくと、中にストイックな店舗もあり、一方で人でごった返している店舗もあったりというケースも出てくると思いますが、地方はそうはいかないと思うんです。

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Rock&Wall辻堂店にて
 


小玉:キッズが将来ワールドカップ選手になるには、個人の能力差以外には、何が考えられますか?
■渡部:僕はもう完全にメンタルだと思います。僕の場合、練習だとほとんどの選手に勝てないんです。本番だとその選手に勝っていたりするんです。自分の持っている能力を発揮できるかどうかは練習では計れない要素があります。その部分で差がつくんだと思います。ある一定のレベルにはすぐ上がると思います。

小玉:叱っている親御さんもいますが。
■渡部:いいんじゃないですか?まあ、叱るのも色々ありますけど。クライミングをやってない親が技術面で口を出すのはノーセンスだと思います。僕の尊敬するクライマーがジムを経営されていて、今は、子供と一緒に親も教育しないといけないと言ってました。
小玉:どういうことですか?
■渡部:家庭にいる時間がジムにいる時間よりも長い。学校にいる時も管理できないじゃないですか。だと、来た親をしっかり教育していけば、自分たちが提供したいものを家庭の中でもうまくトレーニングできる。僕も練習は24時間だと思っているので。一番良いのは親もクライミングをやってもらえれば。

小玉:2020年のオリンピックそのものについては考え方をお聞きしましたが、特にご自身のお気持ちとなるとどうでしょう?
■渡部:そうですね、僕はむしろその4年後のフランスは出たいなと思いますけど。
小玉:4年後のオリンピックは変わっていてほしいですよね。
■渡部:おそらく単種目でという方向で動いていくので、年齢的に有利かどうかは分かりませんが、目標としてはいいかなと。自分が状況にそぐわないなら、状況が変わるのを待つ。待つのは得意。
小玉:3種目別々で、もちろんコンバインドもあってもいいんですけど、違った選手層で、速い人はめちゃくちゃ速い、というのが望ましいですよね。
■渡部:そっちの方が楽しいですよね。それぞれのプロを見たいですね。
小玉:解説する人の責任もすごく大きくて、なぜリードで上の方でもじもじしてるのか、ちゃんと説明しないとわからない。
■渡部:解説側もそうですし、演出する側もそうだと思います。今の日本の技術力だったり、今の時代の技術力をちゃんと使えば、伝えられなくはないと思います。

小玉:オブザベーションについてはリードの場合特に上の方は全然見えない。
選手の方たちは、「どこどこのメーカーだから、あの形状のホールドはパーミングだ」というふうなことがわかるんでしょ?
■渡部:いや、想像でしかない。みんな現場対処しています。下見で100%いくことはないと思っています。現場対応能力がクライミングには必要になります。
小玉:そうですよね。ボルダーはまだ高さがそこまでではないですけれど、リードだと高いと何も見えないですよね、近づいていくと形状が想像できるようになるんですよね。
■渡部:はい、距離感だったりカラビナの位置だったり、自分の体力面も見えてきます。後は、周りの雰囲気も勝敗を左右します。

小玉:スピードはオートビレーなんですね?
■渡部:そうです。そういう意味ではスピードの方が純粋でいいかもしれません。ただフォーマットが変わらないので。ちょっと違います。
小玉:あれは全部オンサイトのルートだったらタイムが全然違いますよね。
■渡部:ばらばらですね。ただ、見る側は面白くないですね。


企業正式入社、クライマーとしては初!
先陣を切って
クライマーが修練に専念できる環境作りの第一歩


小玉:所属のことでお聞きします。住友電装さんは四日市が本社ですね。
■渡部:そうです。明日、出社するのですが、多くて月一回、出社します。広報グループに所属していて、主に広報活動がメインです。結果や近況を報告して、グループ報とか社内報とかにコメントを書いたりもします。
小玉:四日市に出社ですか?
■渡部:はい。形態も特殊ですし、就職できたこともあまり例がないと。
小玉:例がないどころか初めてでしょ。クライマーでは。
■渡部:クライミング関連の企業ではもしかしたらあるかもしれませんが、クライミング関連以外の企業では初めてだと思います。
小玉:スポーツメーカーでもないですしね。
■渡部:まったく関係ないですね。
小玉:高校の時の専攻とは関係ありますよね?
■渡部:専門学校ですか?全然関係ないです。僕がただ車が好きなだけです。整備士の国家資格がとりたかったので、そういう専門学校を選びました。入社した会社と繋がりはないです。
小玉:車のパーツを作っている会社ですか?
■渡部:カプラーですね。コネクターの線と線を結ぶ部品です。何十年後かに実用化される技術開発を手掛けていたり、ハーネス製造、電線もそうです。どのメーカーの車にもついてる。縁の下の力持ち。

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ボルダリング ハウスノット・名古屋で開催された「ホジゾラセッション3rd」に講師として参加。
2018年10月
  

*ボルダリング ハウスノット:BOULERING HOUSE KNOT https://www.bouldering-knot.com/

小玉:お給料制なんですか?
■渡部:給料制です。他の社員と変わらないです。
小玉:それは、助かりますね。遠征の費用に関してもサポートがあるんですか?
■渡部:国内外問わず、日本代表や県の代表で動く時、協会から支給されない場合は、会社で負担していただくことがあります。普段の練習は出ないです。
小玉:それは、おめでとうございますって感じです。みんな、それで苦労しています。勝ったからって一銭にもならない中、持ち出しだけでやってらっしゃるわけだから。
電装さんから声がかかったんですか?
■渡部:結果的にそうです。
小玉:そのようなケースが増えていけばいいですね。
■渡部:今後クライミングのスポーツとしての格が上がれば可能性も高まると期待しています。僕は僕で、今回2位になったから(2018年11月のIFSC-ACCクライミング アジア選手権 倉吉 ボルダリングで渡部選手は準優勝している)スポンサーが付かないかなと期待しましたが、付きませんでした。それが実現できる流れができれば、もっとクライミングに関わる企業が増えるはずです。今のオリンピックに乗っかる企業はオリンピックが終わった後は手を退くので、クライミングに関わっていこうという企業を増やすことが僕らの世代の責任なのかもしれない。
小玉:そうですね。そういう意味で、どんどんたくさん人口が増えて裾野が広がっていく方がいいですね。渡部さんのようなケースは他のクライマーにとっても、光だと思います。
■渡部:そうなれるように。
小玉:四日市以外に拠点を置いて活動できるのはすごいですね。
■渡部:それは、就職する時に話して、練習環境はいろんなところに行く必要があるからと。出社回数なども、入社に関わった社員の方にいろいろ配慮していただきました。
小玉:今は、バイトしなくても良い感じ?
■渡部:そうですね、バイトしなくても生きてはいけますが、プラスアルファがあった時は、お金があった方が良いので、そこに対する必要なお金は、稼ぐべきだろうなと思うし、あまりにもそういう状況に慣れてしまうと、仕事をするという感覚が薄れて。もちろん優勝することや成績を出すことが仕事なんですけど。一般社会人として、今のような伝える立場にいたり、大会のゲストだったり、セットもしたり、いろんなことに関わり合っていくことは嫌いじゃない。
小玉:電装さん以外にサポートが付くことも認められているのですね?
■渡部:問題ありません。競合他社も少ないですし。自分がなんのためにスポンサーして欲しいかを明確にすれば。
小玉:スポルティバは物品の供給?
■渡部:そうです。昔から好きで使っていたので。

VIVA104_007.jpg

第73回国民体育大会・福井しあわせ元気国体、2018年10月。
三重県成年男子で出場。写真提供義村昌伸さん(住友電装株式会社)
 


VIVA104_008.JPG

愛用のシューズとチョークバッグ・スポルティバジャパン
 


*住友電装(本社・三重県四日市市、川井文義社長)は2017年9月19日、渡部桂太選手(24)を18日付で採用したと発表している。同社は2021年に県内で開催する国民体育大会「三重とこわか国体」に向けてトップアスリートの採用を行っている。昨年4月には女子ラグビー選手が2人入社した。https://www.sws.co.jp/












読み物 VIVA ASOBIST   記:  2019 / 01 / 01

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