インタビュー/記者会見

『漂流夫婦、空き家暮らしで野生に帰る。−生きるための芸術2−』
著・檻之汰鷲(おりのたわし)の二人、
石渡ノリオ・チフミにインタビュー!!

orinotawashi1812_001.jpg 『漂流夫婦、空き家暮らしで野生に帰る。−生きるための芸術2−』が、全国の書店やAmazon等にて発売された。著者名の檻之汰鷲(おりのたわし)は、石渡ノリオと妻チフミが創作活動をする際の作家名である。今回は、その二人に作品展が開催中の都内千代田区の有楽町マルイにて、本書について話を聞いた。

檻之汰鷲(おりのたわし)/プロフィール
石渡ノリオ・チフミによるアートユニット。結婚を機にアート活動をはじめ、2013年よりアートとは何か、生きるとは何かを追い求めて、ヨーロッパとアフリカの5か国に2か月ずつ暮らしながら各地で作品を発表。旅のなかで、生活環境が作品に影響を与えていることを発見し、理想の生活づくりのために約3年間、空き家から空き家へと引越しを繰り返し、海の暮らし、山の暮らし、消えていく日本人の暮らしを調査。現在、海と山のある北茨城市の古民家を拠点に活動している。ヨーロッパとアフリカの旅は『生きるための芸術 -40歳を前に退職。夫婦、アートで生きていけるか』として出版。
http://orinotawashi.com

尾崎:ザンビアの泥の家作りの経験から、今回の空き家暮らしの発想になったと?
石渡ノリオ(以下、ノリオ):泥の家作りの時に、ザンビアの人たちから「お前は東京でどうやって生きているんだ?」と聞かれて、「会社に勤めてお金を貰って生活をしているんだよ」と答えました。するとみんなに笑われて「ザンビアでは野菜を育てたり、家を建てたりしなければ生きていけないよ」と言われました。その時に、自分で生きる技術を身につけなければと思いました。帰国後にもう一度、自分の生活を作り直したいと考えると、一番負担になっていたのが家賃でした。そのコストを下げる事ができれば、もっと自由な時間ができると考え、それから家賃を下げるための空き家探しが始まりました。

尾崎:空き家でなくても地方に行けば、安い物件があるような気がしますが……。
ノリオ:それが、意外とないのです。良い物件だと東京の70%くらいの家賃で、凄く安いという訳ではないのです。極端に安い物件というのは、人がそのままでは住めなかったり、交通の便が非常に悪かったりと、市場に流通しないような物件です。

orinotawashi1812_002.jpg 尾崎:空き家は、インターネットでは見つからないと……。
ノリオ:出来るだけ家賃を下げたい、出来ればゼロに近づけたい。人に貸すことができなくて困っているような物件。だから個人にアクセスするしか方法がなかったのです。
2014年頃に空き家をインターネットで検索したところ820万戸あると。それだけの数の空き家があるにも関わらず、家がなくて困っている人がいることは不思議だなと思いました。とにかく自分の家賃を下げ、住めないといわれている空き家に自分が住んでみせることが、その問題の突破口になるのではないかと考えました。
最初に、NPO法人を主催する柚木理雄さんの紹介で、名古屋出身の木造建築家と僕ら夫婦の4人で愛知県津島市にある空き家物件を見に行きました。そこで大家さんに「住んでみる?」と提案されて、そこから仲間が集まり“空き家再生プロジェクト”が動き出しました。最初にどうやって再生をするのかという話になり、耐震や屋根の修復など色々と問題が発生しました。建築的な規制もあり、その改修費に何百万もかかることが判明しました。そんなにお金がかかるのなら、なんのためにプロジェクトをやるのかと、大家さんの判断で一度はプロジェクトが中断してしまいました。

orinotawashi1812_tsushima.jpg ▲愛知県津島市

尾崎:昔は、住人が勝手につぎはぎをして家を建て増ししたりしていましたよね?
ノリオ:そうなんです。変な形の木造の家とかありました。今は、昔のようにはできないと思います。海外を旅して体験したことと、日本の今の現状を照らし合わせると、不思議に思えます。海外の人なら喜んで住むような家でも、規制によって改修しないと住めないなど……。そういったルールを見直さないと、目の前にまだ使えるものがあっても使えない状態が増えていきます。

尾崎:空き家を探し始めてから今日まで、どのくらいの空き家に住むことができたのですか?
ノリオ:2015年から2017年の3年間で、トータルで5軒です。
尾崎:最初は苦労されたと……。
ノリオ:最初は苦労しました。でも、ひとつクリアすることができると、方法もわかり自信もつきます。空き家で困っている人がいれば、体験や実績を話してアドバイスをする事もできます。何事にもあてはまると思いますが、ゼロを1に変えることが難しいのです。
最初に家を改修したいとお願いした時には「家を直す技術があるんですか?」と質問されました。ありませんと答えたら話にならないですよね。一度、プロジェクトは中断しましたが、愛知県津島市の大家さんが了承してくれて、住みながら改修したことで、ゼロが1になったことが大きな出来事でした。

尾崎:本書の中で興味深かった言葉に“総持ち(そうもち)”というのがありました。数値化できないことへの通俗的な言葉ですよね。
ノリオ:総持ちとは、家の構造を部位それぞれが支えているのではなく、いろんな作用が影響し合って全体で支えているという考え方なんです。それは昔の人たちの暮らし方でもあって、家はその時代ごとのライフスタイルを映しているんです。当時の社会には、今より互助の精神があったんですね。数値化という点では、全てが割り切れるようにはっきりと白黒をつけると、グレーな部分がなくなって明解にはなりますが、世の中の全てが数値で割り切れる訳ではないので、今の時代こそ総持ちのような考えは必要なことだと思います。他者と共有する部分では数字で計ることは良いですが、すべてを白黒はっきりさせてしまうと、数値ではなかなか計れない自然現象などを加味できているのかなと疑問が残ります。

orinotawashi1812_003.jpg 尾崎:もうひとつ「不便な暮らしの手帳について」の章が興味深かったです。トイレが恐いなど、私も小さい頃に田舎の祖母の家で経験があります。
石渡チフミ(以下、チフミ):そのトイレには、謎の造花が飾ってあったり、何に使うのか分からない布が付いていたり、そういう昔住んでいた人の痕跡と錆やシミがたくさんありました。特にシミは色んなことを想像しますよね。顔に見えたりもしますし……。戸を閉めるのが恐くて、家には二人しかいないので、戸は開けたままトイレに入っていました(笑)。閉めちゃうとそのまま閉じ込められるんじゃないかって。

尾崎:あえて冷蔵庫と洗濯機と電子レンジを所有しないで、不便な暮らしをしたと……。
チフミ:洗濯機がないことに一番苦労しました。冬の厚手の服を洗うと、台所の周りに水が飛び散って水浸しになりました。今の住宅のように洗濯機用の流し場もないですから。
尾崎:大きなタライを使って洗濯をするとか?
チフミ:シンクが狭くて大きなタライは入りませんでした。洗濯物は一晩、水に付けてから洗います。洗うことも大変でしたけど、お湯も出ないので、乾かすことがもっと大変でした。通常の洗濯機だと脱水の機能がありますよね。脱水をするかしないかで乾く時間が全く違います。こんなにも大変だとは思いませんでした。

尾崎:昔、田舎暮らしだった祖母の家の洗濯機の脱水はローラー式でしたね。
チフミ:ローラーですか? それは思いつかなかったです。私の脱水方法は、びしょ濡れの服をそのまま物干に掛けます。しばらくすると水が下に溜まってきます。それを牛の乳搾りのような感じで素手で搾って水分を取ります。そうすることで乾きが速くなりました。
尾崎:その他に、苦労したことはありましたか?
チフミ:掃除が大変でした。毎日掃除をしないと、あっという間に家の中が汚れます。建物の隙間が多かったこともあり、外の埃が室内に入ってきます。毎日のように掃いて拭き掃除をしないと、すぐに埃っぽくなります。

尾崎:虫などは平気でしたか?
チフミ:私、虫には強いんです(笑)。長野県の岡谷市生まれで、岡谷のある諏訪地方ではイナゴや蜂の子を食べる習慣があったので虫は恐くなかったです。恐かったのはネズミですね。
尾崎:昔は、ネズミがお風呂場の石鹸をかじったりしましたね。色々とお話を伺ってきましたが、私の祖母の昔の暮らしに空き家での暮らしは近い感じがしますね。
チフミ:まさに、そんな感じです。
ノリオ:不便な暮らしを選択していくと、タイムスリップをしていく感覚になります。だからモノがなければないなりに生活って成り立ちます。昔の人は、冷蔵庫や洗濯機がなくても生活をしていました。

尾崎:本書の巻頭の部分に「海のそばに空き家を見つけ、ボートを手作りして、海と遊びながら、作品をつくり暮らすこと」とありますが、ボート作りは上手くいきましたね。
ノリオ:そうなんです。家を修理した経験で木工の技術を手に入れていたことと、義父が長野県の諏訪湖でカヌーを作っている人がいるよと教えてくれて、その人と一緒に作ることができたことが上手くいった要因です。その人の作るカヌーは、廃材などを利用した自己流の作り方でした。その技術を教えていただき、夢だったカヌー作りがすぐにできちゃった感じです(笑)。しかも低予算で。木材が手に入れば、かかる費用は接着剤とコーキング剤くらいなので、安く作ることができました。

orinotawashi1812_nakatsugawa.jpg ▲岐阜県中津川市

尾崎:前回の取材時に、恵比寿ガーデンプレイスで小屋を建てていると伺いましたが……。
ノリオ:そうですね。岐阜県中津川市の森のある古民家で暮らしていた時に、友人が突然「ノリオくんが小屋を建てる初夢を見た」と連絡をくれました。その彼が恵比寿の地域活性化活動をしていて、恵比寿ガーデンプレイスで毎年イベントを開催していました。そのことがきっかけです。ちょうどその時、僕も小屋を建てたいと思っていました。

orinotawashi1812_ebisu.jpg ▲恵比寿ガーデンプレイス

尾崎:ボート作りもそうでしたが、経験を生かしてスムーズに小屋作りはできましたか?
ノリオ:小屋作りは大変でした。構造としてボートより大きかったので、できるだけお金をかけないで材料を集めることが大変でした。一番大変だったのは屋根を作ることでした。防水というか雨を凌ぐ構造にしないといけなかったので、雨を通さない材料は、なかなか自然の中にはありません。石は雨を通さないけど重いので構造上問題があり運ぶことも大変です。色々と考えている中で、仲間のひとりから「茅葺きにしたらどうかな?」と提案され、僕もやりたかったので茅葺き屋根にすることにしました。でも、すごく大変だったんです。
チフミ:大変だったね!
ノリオ:茅は束になると小さくなります。
チフミ:何層にも厚くしないと雨を通さなくならないので、持っていた量では足りませんでした。
ノリオ:一日中、茅を束ねましたが、小さな小屋の屋根なのに足りませんでした。それでも集まってきた材料で小屋は完成しました。

orinotawashi1812_kitaibaragi.jpg ▲茨城県北茨城市

尾崎:現在の活動について教えてください。
ノリオ:現在は、北茨城市を拠点に活動をしています。そこでも古民家を改修してアトリエを作り芸術活動をしています。僕のそもそもの目的が「アートで生きていく」だったので、それを叶えるために海外を旅したり家を直したりと、随分と遠回りをしましたが、ようやく拠点をもって少ない家賃で生活を作れるようになりました。今は作品を販売することに挑戦しています。今日のような展示販売もしながら、生活をつくる活動を続けていきたいです。次の春には、バリ島に住んでる友人を訪ねて竹を使って何かを作ろうと考えています。バリの人は竹で家を作ります。その技術をバリに行って手に入れたいと思っています。日本には竹がたくさん余っていますから。作品を売って得たお金を、お金にはならない生活と芸術を繋ぐ活動に循環させていきたいなと思っています。

尾崎:最後に本書についてメッセージをお願いします。
ノリオ:40歳になった夫婦が仕事を辞めて生活費を下げて「どうやって好きなことをやって生きていくのか?」という挑戦をしました。みんなが生きていく上で、なにかの役に立つのではないかと思っています。『漂流夫婦、空き家暮らしで野生に帰る。−生きるための芸術2−』を読んでいただきたいと思います。

orinotawashi1812_004.jpg ■書籍情報
『漂流夫婦、空き家暮らしで野生に帰る。−生きるための芸術2−』
理想の暮らしを求めて、40歳を前に退職。ヨーロッパとアフリカの5か国を旅しながら暮らし、芸術家夫婦になったノリオとチフミ。帰国して、快適な暮らしをつくるために、空き家を探す。空き家を改修し、舟を作って絵を描いて暮らす理想の幸せハッピーライフのはずが、空き家から空き家へと漂流することに…。
定価:本体1,800円+税
発行:ファミリーズ
発売:メディアパル
全国の書店、Amazon等にて販売


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エンタメ インタビュー/記者会見   記:  2018 / 12 / 18

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